大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)755号 判決 1974年10月30日
大阪市生野区中川西三丁目一〇の八
原告
吉川勇吉
右訴訟代理人弁護士
山田一夫
同
細見茂
同
金谷康夫
同
岡村渥子
同
西元信夫
同市生野区猪飼野中八の七
被告
生野税務署長
安藤敏郎
同市東区大手前之町
被告
大阪国税局長
山内宏
右被告両名指定代理人大蔵事務官
福島三郎
同
河本省三
被告
国
右代表者法務大臣
中村梅吉
右指定代理人大蔵事務官
向後佶雄
同
羽根晃
同
立川正敏
同
畑中英男
右被告三名訴訟代理人弁護士
上原洋允
同訴訟復代理人弁護士
町彰義
同指定代理人検事
井上郁夫
同法務事務官
山口一郎
同
秋本靖
同大蔵事務官
安岡喜三
右当事者間の更正処分取消等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
被告生野税務署長が昭和四一年六月三〇日付でした、原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を一六五万三七〇八円とする更正処分のうち、九二万八三一三円を超える部分を取消す。
原告の被告大阪国税局長、同国に対する請求はいずれも棄却する。
訴訟費用は、原告と被告生野税務署長との間においては原告に生じた費用の二分の一を被告生野税務署長の負担、その余を各自の負担とし、原告と被告大阪国税局長、同国との間においては全部原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 主文第一項と同旨
2 被告大阪国税局長が昭和四三年四月二六日付で、主文第一項の更正処分に対する原告の審査請求を棄却した裁決を取消す。
3 被告国は、原告に対し、五万円とこれに対する昭和四三年七月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに3につき仮執行の宣言
二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決並びに請求の趣旨3について仮執行の宣言が附される場合には、担保を条件とする仮執行免脱の宣言
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、大阪市生野区内の商工業者が組織した生野商工会の会員で、飲食業を営む者であるが、昭和四〇年分所得税につき、昭和四一年三月一一日、総所得金額を九二万八三一三円、所得税額を七万三八〇〇円として白色申告書による確定申告をしたところ、被告生野税務署長(以下、被告署長という)は、同年六月三〇日、総所得金額を一六五万三七〇八円、所得税額を二四万七一八〇円とする更正並びに過少申告加算税八六五〇円を賦課する決定をし、同年七月二日原告に通知した。
2 そこで原告は、同年七月三一日、右処分につき被告署長に対し異議申立てをしたところ、同被告は、同年九月二一日、これを棄却するとの決定をし、そのころ原告に通知したので、原告は、同年一〇月二一日、被告大阪国税局長(以下、被告局長という)に対し審査請求をしたが、同局長は、昭和四三年四月二六日、これを棄却するとの裁決をし、同月二八日、その裁決書謄本を原告に送達した。
3 しかし、被告署長のした本件更正処分には、次の違法がある。
(一) 原告の本件係争年分の総所得金額は九二万八三一三円であり、本件更正処分は原告の所得を過大に認定した点で違法である。
(二) 被告署長の更正通知書には、理由として通則法二四条、六五条と記載されているのみで、その後の異議申立てに対する決定並びに被告局長の審査請求に対する裁決によっても、更正の理由は充分明らかでなく、不服審査制度における争点主義に違反している。
(三) 国税通則法第二四条によると、更正処分は調査に基づきなされるべきものであり、かつ、右調査は納税者の生活と営業を不当に妨害することのない適正なものであることを要求されるところ、被告署長は原告に対し不当な調査をし、かかる不当な調査に基づいて本件更正処分をした。
(四) 更正処分は適正かつ平等になされなければならないのに、被告署長は、原告が商工会々員であるが故に、他の納税者とは差別的にかつ商工会の弱体化を企画して本件更正処分をした。
4 また、被告局長の審査手続には、次の違法がある。
(一) 原告は、昭和四一年一一月一九日、被告局長に対し、原処分庁である被告署長の弁明書副本の送付方を請求したところ、被告局長は、昭和四二年一二月二日、原処分庁に弁明書の提出を要求していないという理由で、右請求には応じられない旨回答してきた。しかし、被告局長としては、原告の審査請求が期間徒過による不適法な場合であるとか、審査請求を全部認容する場合など特別の事由のある場合以外は、右弁明書の提出を原処分庁に要求すべきであって、被告局長がこれをしなかったことは、行政不服審査法(以下、審査法という)第二二条に違反し、かつ、審査手続に最も重要な争点の整理ないし確定を怠ったものといわなければならない。
(二) 更に、原告が、昭和四一年一二月一二日、被告局長に対し、本件更正処分の理由となった事実を証する書類の閲覧を請求したのに対しても、同局長は、更正決議書、異議申立書、確定申告書の三通のみの閲覧を許可する旨通知したにとどまり、実質的には審査法第三三条に違反して閲覧を拒絶した。
5 被告国は、次の理由により、原告に対して五万円の損害賠償をなすべき義務がある。
(一) 原告は、昭和四一年一〇月二一日、本件更正処分につき被告局長に対して審査請求をしたところ、同局長はこれを長期間放置して何らの裁決もなさなかった。そこで原告は、昭和四三年二月二一日、同局長を相手方として、大阪地方裁判所に不作為違法確認の訴え(同庁同年(行ウ)第一五一号事件)を提起したところ、同局長は、同年四月二六日になってようやく本件裁決をしたものである。
(二) ところで、改正前の国税通則法第八三条によって、同局長が裁決をする場合には、協議団の議決に基づかなければならないことになっており、その趣旨は、大量かつ回帰的な課税処分の性質上、第三者の立場から迅速公正な審査をし、もって納税者の権利を保護せんとするにある。このような協議団制度の趣旨に照らすと、審査請求につき慎重な審議のなされることが要求されるとしても、その審議に必要な期間は通常六か月、最大限一年で十分である。
しかるに被告局長は、不当にもこれを一年六か月間も放置したのであり、前記(一)の経過に照らすと、被告局長は、速やかに裁決をなすべき義務がある(審査法第一条)にもかかわらず、故意にこれを遅延せしめたばかりか、既に裁決をなしうる状況にありながら、故意に裁決を遅延せしめるという違法を犯したものといわなければならない。
そしてこの間、被告署長は、本件更正処分に基づき、原告所有の冷房機を差押えて、長期間にわたり財産の利用を困難ならしめた。
(三) 原告は、被告局長の裁決遅延という公権力の行使に基づく違法行為により、その間財産権の利用を妨害され、かつ速やかに行政救済を受ける権利を侵害されて有形、無形の損害を蒙ったが、そのうち無形的損害は、これを金銭的に評価すれば、五万円を下らない。
従って、被告国は原告に対して、国家賠償法第一条第一項に基づき、右損害賠償金五万円並びにこれに対する不法行為後の昭和四三年七月二六日以降支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
6 以上の理由により、原告は被告らに対して、それぞれ請求の趣旨記載の判決を求める。
二 請求原因に対する被告らの答弁
1 請求原因1のうち、原告が生野商工会々員であることは不知、その余は認める。
2 同2は認める。
3 同3は、(二)のうち、更正通知書に原告主張のとおりの理由を記載したことは認めるが、その余は争う。
4 同4は、被告局長が原告主張のとおり弁明書副本送付の請求に応じなかったこと、及び、原告の閲覧請求に対し、被告局長が更正決議書、異議申立決定決議書の閲覧を許可する旨通知したことは認めるが、その余は争う。
5 同5の(一)のうち、被告局長が審査請求を長期間放置したことは争い、その余は認める。
同5の(二)のうち、原告の主張する協議団制度の趣旨及び被告署長が冷房機を差押えたことは認めるが、その余は争う。
同5の(三)は争う。
三 被告らの主張
1 原告の本件係争年分の総所得金額について
(一) 原告の昭和四〇年分の総所得金額は、次のとおり二五五万四〇〇二円であり、その範囲内でなされた本件更正処分は適法である。
(1) 収入金額 七五〇万〇三一九円
(2) 雑収入金額 一三二〇円
(3) 必要経費 四九四万七六三七円
仕入金額 三三八万七六三三円
公租公課 七万四〇一〇円
水道光熱費 三六万〇九二九円
旅費通信費 二万五〇〇〇円
広告宣伝費 五万四四五〇円
接待交際費 八五〇〇円
火災保険料 一万八七五〇円
修繕費 一五〇〇円
消耗品費 五万五八八五円
福利厚生費 五〇〇〇円
諸会費 二万二五六〇円
雑費 九五九〇円
雇人費 七六万九三三〇円
支払地代 四万二〇〇〇円
事業専従者控除額 一一万二五〇〇円
(4) 差引所得金額 二五五万四〇〇二円
(二) 右のうち、収入金額七五〇万〇三一九円は、昭和四〇年分の所得税の調査に際し、原告が被告署長の部下職員である岸本事務官に提示した昭和四〇年分の収支計算表の売上金五六五万八六三〇円に、原告の簿外売上金を預金した、大阪銀行生野支店における開高正竹名義の普通預金口座への昭和四〇年分の入金額一八四万一六八九円(以下、本件預金という)を加算した金額である。
(三) 本件預金が、原告の簿外売上金を預金したものと認められるに至った経緯は次のとおりである。
(1) 原告は、前記調査の際、岸本事務官に対し一枚の計算書を提示したが、右計算書は日々の取引を記録したものではなく、実体は収支計算表で、その他には原告から記録等一切の提示がなかったので、右計算表の数額の正否を検討することができなかった。
(2) その後、原告の取引銀行である大阪銀行生野支店の預金調査において、原告の預金と認められる開高正竹名義の本件預金を発見したので、原告に右預金の確認を求めたところ、原告は右預金が自己のものであることを否認した。
(3) そこで岸本事務官は、右預金の入金内容を具体的に説明したところ、数日を経て、原告は、右預金は妻のへそくり預金であったと右預金通帳を提示したが、売上金の入金事実は認めなかった。
(4) しかし、本件預金の入金内容を検討するに、小切手入金及び現金入金ともに売上金を入金したものと推定されるものである。
(5) 右(1)ないし(4)の経過並びに事実から、原告が岸本事務官に提示した収支計算表の売上金額には、本件預金の入金額に対応する売上金は算入されていないと認めたものである。
2 被告局長が、本件審査請求の審理にあたって、処分庁に対し弁明書の提出を求めなかったことについて
審査法第二二条第一項によれば、審査庁が処分庁に対して弁明書の提出を求めるか否かは、審査庁の自由裁量に属する事項であるから、審査庁が弁明書の提出を求めることなくして裁決をしたことをとらえて、裁決取消訴訟の違法理由とすることは失当である。
即ち、行政不服審査制度は、行政事件訴訟とは異なり、処分庁の一上級行政庁である審査庁が簡易迅速な手続により国民の権利救済を計るものであり、審査庁において弁明書の提出を求めなくても、その他の資料により事案の争点が明確に把握でき、裁決をするのに支障がないと判断したような場合には、弁明書の提出を求める必要はなく、従って、審査請求人から弁明書副本の送付請求があっても、常に処分庁に弁明書の提出を求め、請求人にその副本を送付すべき義務はない。
そして、本件のような所得税に関する審査請求の審理は、事案が大量に発生し、かつ、当該処分に対する不服内容は概して事実認定の当否にかかわるから、税務行政に習熟した協議官が自ら進んで必要な調査を行い、処分関係職員及び審査請求人双方から口頭で意見を聴取する方が迅速適切な処理をすることができるので、弁明書の提出を求めなかったものである。
3 閲覧請求の実質的拒否の主張について
審査法第三三条によれば、審査請求人が閲覧を求めうるのは、処分庁から審査庁に提出された書類その他の物件に限定されているのであり、審査請求人は審査庁に対して処分庁からあらたに書類等の提出を求めることまで請求しうるものではなく、また、処分庁がいかなる書類等を審査庁に提出するかは、処分庁の裁量にゆだねられている。そして本件において、被告局長は、処分庁である被告署長から被告局長に対して送付されていた書類のすべてについて、閲覧を許可しているのであるから、原告の主張は失当である。
四 被告らの主張に対する原告の認否等
1 被告らの主張1の(一)のうち、雑収入金額及び必要経費は認めるが、その余は否認する。収入金額は、原告の確定申告額の五八七万四六三〇円につきるものである。
2 同1の(二)のうち、開高正竹名義の本件預金が、原告の売上金を預金したものであること、及び、右預金の昭和四〇年分の入金額が一八四万一六八九円であったことは認めるが、その余は否認する。
本件預金は、大阪銀行生野支店から預金口座の口数を増加するよう勧誘を受けたのに応じて、原告の妻がその弟の名義(もっとも、同人の名は正確には開高正竹である)を利用して口座を開設したにすぎないものであって、右四〇年分の入金額も当然原告の確定申告の際の収入金額に含まれており、原告の隠し所得を預金したものではない。
3 同1の(三)のうち、本件預金が原告の売上金を入金したものであることは認めるが、収支計算表の売上金額に本件預金の昭和四〇年分の入金額に対応する売上金が算入されていないとの事実は否認する。
4 原告が申告方式を青色申告に切り替えた昭和四一年度から昭和四七年度までの七年間の原告の差益率を検討してみると、別表に示すとおり、右七年間に売上高の伸びがみられる反面、売上原価も上昇しており、差益率はその間ほぼ四〇パーセスト前後に安定している(右七年間の売上金額及び売上原価は、いずれも青色申告書に添付した損益計算書によるものであり、被告署長は更正処分をしていない)。しかるに、昭和四〇年度の収入金額が被告署長主張のとおりであるとすると、この年に限り、差益率は別紙のとおり五八・四三パーセストと異常な数値を示すことになり、この点からも被告署長の主張が失当であることは明らかである。
第三証拠
一 原告
1 甲第一号証の一ないし三一二、第二・第三号証、第四号証の一ないし一二、第五号証、第六ないし第八号証の一・二、第九ないし第一七号証を提出
2 原告本人尋問の結果を援用
3 乙号各証の成立を認める。
二 被告
1 乙第一号証の一・二、第二号証を提出
2 証人松尾府、同岸本慶雄の各証言を援用
3 甲第一号証の一ないし三一二、第二・第三号証、第四号証の一ないし一二の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。
理由
第一 請求原因1のうち原告が生野商工会々員である点を除くその余の事実及び同2の事実については当事者間に争いがない。
第二被告生野税務署長に対する請求について
一 まず原告の本件係争年分の総所得金額について判断する。
原告の本件係争年分の雑収入金額及び必要経費については当事者間に争いがないので、収入金額について検討する。
1 原告が、昭和四〇年分の収入金額として、少なくとも、五八七万四六三〇円を得たことは、当事者間に争いがない。
2 開高正竹名義の本件預金が原告の売上金額を預金したものであること、及び、右預金の昭和四〇年中の入金額合計が一八四万一六八九円であることは、当事者間に争いがなく、本件における収入金額の争いは、専ら、右預入金額一八四万一六八九円に対応する売上金が、原告の確定申告の際の収入金額から除外されているか否かにかかるものである。そして被告署長は、原告が申しでた売上金額五六五万八六三〇円に右預入金額を加算した七五〇万〇三一九円が原告の収入金額であると主張するところ、成立に争いのない乙第二号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は右売上金額五六五万八六三〇円に自家消費額二一万六〇〇〇円を加えた五八七万四六八〇円を収入金額とし、これにより確定申告をしていることが認められるから、結局争点は右売上金五六五万八六三〇円と右預入金額に対応する売上金一八四万一六八九円とが別個のものか重複しているかということに帰する。
そこでこの点について判断するに、証人岸本慶雄の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、生野税務署係員からその係員が銀行調査の結果探知した本件預金について説明を求められた際、当初は右預金の存在を知らない旨返答し、その後、本件預金が原告方のものであることは認めながら、原告自身は本件預金には何ら関与していない旨申し立てたことが認められる。原告の右態度と本件預金が原告の売上金を預入れたものである事実とに徴すると、本件預金の口座は原告がその売上金を秘匿するために利用していたのではないかという疑を抱かざるをえないのであるが、しかし、以上の事実から、直ちに、被告署長の主張する如く、本件預金の入金額に対応する売上金額一八四万一六八九円が、原告の申しでた売上金額五六五万八六三〇円に全く算入されていないものとは断定しがたく、他に、前者と後者とが全く重複していない別個の売上金であることを認めるに足る証拠は存在しない。
3 以上によれば、原告の本件係争年分の収入金額は、五八七万四六三〇円とみるほかなく、右収入金額と雑収入一三二〇円との合計額から必要経費四九四万七六三七円を差引いた所得金額は九二万八三一三円となり(雑収入及び必要経費については争いがない)、原告の申告所得額と一致する。
二 そうすると、被告署長の本件更正処分は、原告の所得金額を過大に認定した点において違法であり、原告の被告署長に対するその余の主張について判断するまでもなく、本件更正処分のうち原告の申告所得額九二万八三一三円を超える部分は取消を免れない。
第三被告大阪国税局長に対する請求について
一 原告が、昭和四一年一一月一九日、被告局長に対し、原処分庁である被告署長の弁明書副本の送付を請求したこと、及び、被告局長が、原処分庁に弁明書の提出を要求していないとして、これに応じられない旨回答したことは、当事者間に争いがない。
ところで、審査法第二二条は、昭和四五年法律第八号による改正後の国税通則法第九三条とは異なり、審査庁が審査請求の当否を判断するに当って、必ず処分庁から弁明書の提出を求めなければならないとはしていないのであり、その提出を求めるか否かは、事案の争点を明らかにし、これを適正迅速に処理するために弁明書が必要であるかどうかという観点から審査庁が決すべく、その裁量に委ねられていると解される。従って、審査庁である被告局長が、被告署長から弁明書の提出を求めなかったことをもって、直ちに本件裁決の取消事由とすることはできない。また、被告局長が被告署長に弁明書の提出を求めなかったことから、被告局長が争点の整理を怠ったと即断することもできない。
二 原告が、昭和四一年一二月一二日、被告局長に対し、本件更正処分の理由となった事実を証する書類の閲覧を請求したことは当事者間において争いがなく、成立に争いのない甲第一〇号証及び証人松尾府の証言によれば、被告局長は、右閲覧請求に対して、更正決議書、異議申立決定決議書の閲覧を許可する旨原告に通知したことが認められる(更正決議書についてはこの点当事者間に争いがない)。
ところで、審査法第三三条によれば、審査庁は当該処分の理由となった事実について、その指定した閲覧日までに処分庁から提出のあった証拠資料を審査請求人の閲覧に供すれば足りるところ、証人松尾府の証言によれば、被告局長が閲覧を許可した書類は当時被告署長から被告局長のもとに提出されていた書類のすべてであったことが認められ、これを左右するに足る証拠はない。
従って、被告局長の本件閲覧許可に違法な点はない。
第四被告国に対する請求について
原告が、昭和四一年一〇月二一日、被告局長に対して審査請求をしたが、同局長が裁決をしないので、昭和四三年二月二一日、同局長を相手に大阪地方裁判所に不作為法確認の訴え(同庁同年(行ウ)第一五一号事件)を提起したところ、同局長が同年四月二六日に裁決をしたこと、被告署長が原告所有の冷房機を差押えたことは、当事者間に争いがない。
ところで、審査法第一条第一項は、行政不服審査制度が、迅速な手続により国民の権利利益の救済を図ることを目的とするものであることを明らかにしているが、審査請求がなされてから裁決までに一年六か月の期間を要したというだけで、直ちに被告局長の所為が同条に違反し、違法であると速断することはできない。被告局長において、既に裁決をなしうる状況にあるのにことさら裁決を遅らせたり、あるいは、いたずらに事件の処理を放置し、そのために、前記制度の趣旨が損われる程度に著しく裁決の遅延をみるような場合には、被告局長の措置は、行政不服審査制度を設けた趣旨に反するものとして、違法となることがあると解すべきであるけれども、本件全証拠によっても、そのような事実は認めがたいから、被告局長の所為を違法とすることはできない。
そうすると、原告の被告国に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく失当である。
第五結論
以上によれば、原告の本訴請求は、被告署長に対する請求に限り理由があるからこれを認容し、被告局長及び被告国に対する請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 鴨井孝之 裁判官 大谷禎男)
別表
<省略>